従来のモデルとまったく違うシステムのマリゴ・オーボエ“M2”。そのM2でトリオのCD「田園のコンセール」をレコーディングした池田昭子さん(NHK交響楽団)と、5月の来日ではマスタークラスも大好評だったノラ・シスモンディーさん(フランス国立管弦楽団)にお話を伺いました。
池田:私は高校2年生の時に初めてマリゴを買いました。以後はずっとマリゴです。自分の表現したいことをダイレクトに出せる楽器という点でマリゴに代わる楽器はありません。それと、音色が心の琴線にふれるというか…いい音というだけではなく、きゅんとくるのです。
ノラ:パリのコンセルバトワール2年生の時、初めて自分で選んだ楽器がマリゴです。とても自由に音楽を表現することができると感じたので…。楽器を選びにいった時、ただの学生なのに、プロ奏者と同じように隔たりなく接してくれたんですよ。工房で働く人たちも一丸となっていい楽器を作ろうとしているのが伝わってきました。
池田:その姿勢の結果としてM2が開発されたんでしょうね。
ノラ:M2は、私が今吹いているフランス国立管弦楽団の前オーボエ奏者でもあるMichel Croquenoyによって監修された楽器です。とても優秀だった彼が、いろいろなブランドの楽器に共通した問題があることに気づいて、全く新しいシステムを試してみたいとマリゴ社に持ちかけたんです。
池田:それが、ジョイント部を上のほうに持ってくることで、すべてのトーンホールを理想的に配置できるというシステムですね。
ノラ:従来のモデルの分割位置なら、ケースにしまうのもとても楽です。でも、ジョイントを真ん中に持ってくるためにはGisホールを上に、Gホールを下に持っていかざるを得なかった。そこで、正しくあるべき位置に穴を開けるために、ジョイントを上のほうに持っていこうということで、この形が出来上がりました。これによって、全体のチューニングがとても簡単にできるようになりました。

池田:習っていたルルー先生がすごく推薦していらっしゃった。ルルー命だから、ルルーがいいって言っているんならいいに違いない(笑)。ただ、最初はあまりにすべてが違っていて、全然慣れなかったですね。後日、ルルー先生がN響でコンチェルトをされた時の演奏が素晴らしくて、先生の楽器を吹かせてもらったらすごくよかったし、もう替えるしかないと…。今まで不揃いだったものに慣れすぎていて、整った状態に移行していくのにちょっと時間がかかる。まっすぐきちっと息をいれるということを自分に覚え込ませればいいだけなのですが…。でも、集中し始めて3ヵ月後くらいには慣れました。それだけの価値は大いにあると思います。今は、昔あんなに苦労していたものをこんなに楽に出せちゃっていいのかな!という感じです。
ノラ:私も最初は今までの楽器との音程の違いに驚きました。普通に息を吹き込むだけということに慣れるまでとても時間がかかりました(笑)。Gの音を吹くのにわざと上げなくていい、高い音もただ普通に吹けばいい、普通に吹くだけで音程は合うのです。これはびっくりするほど素晴らしい感覚でした。いかさまをしているような感じさえします(笑)。カンニングか、ドーピングでもしているような感じ(笑)。
池田:その他でM2に惹かれるところは?
ノラ:アンブシュアがとても楽になって緊張しなくてもいいところです。従来の楽器は音程を合わせるために噛んだりすることもあったのですが、常に口を開けてリラックスした状態で吹けるようになりました。ショウコさんは?
池田:右手から左手へのレガートがすごくつながりやすいところかな。それと、いい意味で音が均一になりましたね。
ノラ:オーボエという楽器はとても難しいので、なるべく簡単に吹きこなせる楽器、自分に合った楽器を見つけ、自分自身の音というものを作り上げていければいいですね。
池田:そうですね。自分が心地いいというのはすごく大事なことです。
ノラ:M2についてひとつ付け加えると、長さが違うヘッドジョイントが用意されているというのは特にヨーロッパではとても嬉しいことなんです。ドイツではピッチが高く設定されているし、パリにいる時は442、イギリスに行った時は440。ヘッドジョイントを替えればすむので、リードを調整するより楽ですね。
池田:日本ではフルオートを使っているプロの方がけっこう多いので、セミオートしかないM2を試していない方も多いかもしれません。フランスでは?
ノラ:フランスはほとんどセミオートですし、M2もだんだん普及してきました。ときどきM2を買いたいという生徒の両親に他の楽器より高いけれど、という相談を受けますが、いい楽器を作るために研究を重ねてきたので、値段がそれなりにあがってしまうということは説明します。また、長年使用して音色が開いてきてしまった時などヘッドジョイントを変えればまた数年は使うことができるし、値段は高くてもより長く使える楽器だと思います。

池田:初めてノラさんにお会いしたのは16年前、フランスでの講習会です。その後2002年のミュンヘンコンクールで再びお会いしたときにノラさんの演奏がとても素晴らしくて、印象に残りました。
ノラ:ありがとう(笑)。コンクールと言えば、日本人はあまり興味がないのかしら。国際オーボエコンクールへの出場を勧めたら、驚いた顔をする子が多いのだけれど。
池田:敷居が高いと思っているところもあるでしょうね。
ノラ:国際コンクールほど一度にたくさんのオーボエ奏者に会える機会はそうないし、それはとても素晴らしいこと。バイオリンやピアノのコンクールとは違って優勝が即キャリアに結びつくと言うより、今日はあなたが1番だったけど皆で一緒に音楽を楽しんで…という感じ。私はいつも純粋で誠実な奏者同士の友情を感じます。それに、審査員には日本、フランス、イギリス、ドイツなどそれぞれの国のトップ奏者が並ぶから、彼らに会うこともできるし。入賞することを考えるのではなく、その時間をともに過ごし、良い友達を作り、たくさんの演奏や音楽を聴くことが大切だと思います。
池田:私もミュンヘンコンクールを受けた際、いろいろな国のいろいろな人の演奏を聴いて、ほんとうに素晴らしい人たちがいるんだということを知ることができました。その経験というのは何ものにも代えがたいものなので、日本人にももっとチャレンジしてほしいですね。受ける自信がなければ、聴きに行くだけでも。
ノラ:そうですね。もっと好奇心を強く持つべきですね。怠惰にならないで、常に広い心を持って、音楽に関わらずいろいろなことを学んで欲しいと思います。




